過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群腹痛や便通異常(下痢・便秘)が繰り返されるのにもかかわらず、胃カメラ検査や大腸カメラ検査、血液検査を行っても、原因となる疾患がはっきりされない疾患です。便通異常の種類に応じて「便秘型(IBS-C)」「下痢型(IBS-D)」「混合型(IBS-M)」「分類不能 (IBS-U)」に分けられます。
推定有病率は全世界人口の4.1%、日本人の2.2%程度(およそ300万人)と報告されており、特に若い方や女性の患者様が多い傾向にあります。全世界で増加傾向であります。死に至る疾患ではありませんが、症状がうまくコントロールできないことで、日常生活や学校、仕事などに大きな悪影響を及ぼしている方も多くいらっしゃいます。また、働き世代の患者様が多くみられるため、経済的損失も懸念されています。慢性的に症状に苦しむ方だけでなく、健康な方が感染性腸炎を発症した後に、IBSを発症させてしまうケースもあります。
食欲不振や胃の痛みなどを伴っている方もおりますが、不安や抑うつ、不眠症、めまい、肩こり、頭痛、喉の詰まり感などといった、お腹以外の症状に悩む方も少なくありません。またIBSはストレスとも深く関わっており、ストレスを自覚した時に悪化する方もいます。

過敏性腸症候群の原因

細菌やウイルスによる感染性腸炎にかかった後にIBSになりやすいことが知られています。腸の粘膜炎症や腸内細菌、粘膜透過性亢進が関与しているのではないかと考えられています。これらが神経の感作を介して運動機能と知覚機能が敏感になるためです。
また神経伝達物質とホルモン、ストレス、遺伝的要因なども関与していると考えられていますが、未だはっきりとした原因は分かっていません。

過敏性腸症候群の診断

便秘や下痢などが起こる潰瘍性大腸炎や、大腸がんなどの器質的疾患が隠れていないかを調べることがあります。そのためまずは、大腸カメラ検査を受けていただくことがあります。また、甲状腺や膵臓に関する疾患などでも似たような症状は起こるため、血液検査や腹部超音波検査なども受けていただくこともあります。

過敏性腸症候群の国際的な診断基準

ROMA Ⅳ基準

  • 直近3ヶ月以内での1週間内で、腹痛が1日以上あった
  • かつ、以下の項目に2つ以上当てはまっている
    (1) 排便に関連する症状がある
    (2) 排便頻度が変化する
    (3) 便の形状が変化する

ROMA Ⅳ基準では、腹部の不快感が条件から外され、腹痛のみとなりました。しかし実際の医療機関では、腹部の不快感も診断の1参考として考慮しています。

過敏性腸症候群の病型

便の性状によって、以下の分類に分けられています。便の性状は以下の「ブリストル便形状スケール」がよく用いられています。

便秘型IBS(IBS-C)

便が硬い、またはウサギのフンのようにコロコロとした便がよくみられる(25%以上)、軟便・泥状の便または水様便(水下痢)が少ない(25%未満)

下痢型IBS(IBS-D)

硬い便、またはコロコロした便が少ない(25%未満)。軟便・泥状の便または水様便(水下痢)がよくみられる(25%以上)

混合型IBS(IBS-M)

硬い便・コロコロした便と、軟便・泥状の便・水様便(水下痢)の両方が見られる(両方とも25%以上)。

分類不能型IBS

上記のどれにも当てはまらないタイプです。

過敏性腸症候群の治療

食事療法食事療法

症状を引き起こしやすい食品(脂っこい食品、カフェイン飲料、香辛料が多い食品、ミルクや乳製品など)を控えるのが望ましいです。また、特定の食品を食べることでIBSの症状が現れやすくなる患者様もいます。その場合は、原因となる食品を避けることが必要です。
近年、短鎖炭水化物を多く含む食事(FODMAP)を避けることで症状を抑えると報告されている。FODMAPの代表は小麦、玉ねぎ、ひよこ豆、レンズ豆、りんご、とうもろこし、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどである。FODMAPは小腸で消化吸収されにくく、腸内細菌で発酵・分解され水素ガスやメタンガスを発生させ、腹部症状の原因となる可能性があります。低FODMAP食(米、そば、にんじん、大根、じゃがいも、魚、肉、チーズなど)を取り入れることで症状が軽減できる可能性があります。

運動療法運動療法

運動は、過敏性腸症候群の改善に期待できるとされています。特に散歩やエアロビクス、ヨガ、水泳、ランニングなど、無理なく続けられる有酸素運動をお勧めします。
IBSの症状はもちろん、身体のだるさや胸焼け、満腹感などの症状も改善されたと報告されています。

薬物療法

内服療法便秘型・下痢型・混合型などのタイプに合った、治療法を勧めていくことが重要です。また、どのタイプも共通して、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌といったプロバイオティクス(整腸剤)が有効であると報告されています。
治療ではよく、消化管運動機能調整薬や下痢止め、高分子重合体、セロトニン受容体拮抗薬、抗コリン薬、粘膜上皮機能変容薬など、様々な薬剤を処方します。ただし、誰にでも合う薬はないので、患者さんの一人一人の症状に合わせた処方が重要です。
その中でも特に、下痢型のIBSに効きやすいお薬があります。

イリボー(ラモセトロン塩酸塩錠)

消化管運動の活発化を促す、セロトニンの伝達経路をブロックすることで、排便を促したり下痢症状を解消させたりします。ただし副作用として、便秘が起こる恐れもあります。緊張や刺激を受け取ると下痢を起こしやすい患者様には、非常に効きやすいお薬ですが、初めは副作用に考慮して少量投与していきます。
特に女性は便秘になりやすい傾向があるため、わずかな量を処方します。女性は2.5㎍~5 ㎍ 、男性は5 ㎍ ~10 ㎍ の投与から始めます。

漢方薬

例えば大建中湯(だいけんちゅうとう)といった、排便回数や便の性状を変えずに、腹部の膨満感などを解消させる漢方薬を用いることがあります。ちなみに大建中湯は、日本で一番使用されている漢方薬です。
また過敏性腸症候群は、心窩部痛(しんかぶつう:みぞおち辺りの痛み)や食後の腹部の張り感などが起こる、機能性ディスペプシアとも合併しやすい疾患です。過敏性腸症候群も機能性ディスペプシアも、漢方薬の処方が必要になるケースがよくあります。ただし漢方薬の効き方は個人差が大きく、かなり効く方もいれば、全く効かない方もいます。一人ひとりに合わせた調整が重要です。
当院では、日本大腸肛門病学会の専門医が総合的に治療を行っていきます。下痢や便秘などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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