ピロリ菌

ピロリ菌とは

胃潰瘍「ピロリ菌が胃がんの原因だと聞いたけど、一度検査を受けたほうがいいのかな」「親が胃がんになったことがあるので心配」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
近年ではメディアを通して「ピロリ菌=胃がんの原因」という知識は広まりつつあります。このページではピロリ菌のリスクや、除菌治療などについて解説していきます。

ピロリ菌の感染経路

ピロリ菌は強い酸(胃酸)で満たされている胃粘膜に棲む、らせんの形をした細菌です。ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を生み出して周りの胃酸を中和させているため、胃酸のある胃の中でも生存できます。井戸水、沢水を直接使用していた家庭で幼年期を過ごした方の胃に、潜んでいる傾向があります。未感染の子供を追跡した調査では、海外・日本ともに、ヘリコバクター・ピロリの主な感染時期は乳幼児期と報告されています。それ以後の年代の感染は少ないと指摘されています。
現代では上下水道が整備され、生活環境も向上されたことで、先進諸国のピロリ菌感染者は減少傾向にありますが、新興国、途上国では依然高い感染率です。

ピロリ菌と胃炎、胃がん

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃粘膜に感染することで胃炎(ヘリコバクター胃炎)を発症させる菌です。1994年にWHOはピロリ菌を、胃がんの確実な発がん因子として定めました。
他にも、胃がんに至る確実な因子としては、アルコールや喫煙などが挙げられます。2001年には、ピロリ菌陽性者のみに胃がんが発症されたこともNEJMに報告されています。(※3)

(3)Uemura N et al: N Engl J Med 2001; 345:784-789

ピロリ菌の除菌治療

1次除菌治療

プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン結合型アシッドブロッカー(P-CAB)に、アモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた合計3種類の薬剤を、朝夕食後に7日間飲み続けます。

2次除菌治療

PPIまたはP-CABに、アモキシシリンとメトロニダゾールを加えた合計3種類の薬剤を、朝夕食後に7日間飲み続けます。

※ボノプラザン(P-CAB)は、1次除菌・2次除菌ともに除菌成功率が98%と報告されている薬です。現在の除菌療法では、ボノプラザンが主に用いられています。

保険適用

2000年には胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者様に対して、ピロリ菌の除菌治療が保険適用されるようになりました。そして2010年には胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡治療を受けた方を対象に、保険適用されるようになりました。
また感染によってヘリコバクター胃炎や胃がんへ進行しないよう、2013年からはピロリ菌感染者全員が、除菌治療を保険診療で受けられるようになりました。

日本では胃がんの99%はピロリ菌が原因

胃がん先述したように、ピロリ菌は胃がんの原因になります。しかし、実際にはどのぐらい影響があるのか、ピンとこない方もいるのではないでしょうか。日本の調査によりますと、ピロリ菌未感染者に比べ、現在感染している方の胃がん発症リスクは15倍以上と報告されています。さらに、海外では20倍以上も高いと指摘されています。他にも、ピロリ菌がどれくらい胃がんの原因としてかかわっているのかを調査した報告はたくさんあります。2011~2012年の日本で診られた「ピロリ菌が関連しない胃がん」はたったの0.3~0.9%と言われています(※4)(※5)。
近年胃がんの罹患率、死亡率ともに一貫して減少傾向であります。これはピロリ菌の保菌者の減少と胃がん検診や内視鏡医療が普及した影響と考えられています。
胃がんを予防するには胃カメラを行い、ピロリ菌感染が疑われた時は検査して除菌することが最も大切です。

4)Ono S,et al. Digestion. 2012;86(1):59-65.
5)Matsuo T, et al. Helicobacter. 2011 Dec;16(6):415-9.

ピロリ菌除菌による胃がん予防

胃カメラ検査「ピロリ菌を除菌すれば、本当に胃がんの発症予防できるのか」そう考えた方もいるのではないでしょうか。早期胃がんの方に内視鏡治療を受けていただいた後、新たに胃がんが発症したかどうかを比較する無作為ランダム化比較試験(RCT)を行った結果、「ピロリ菌を除菌すると胃がんも予防できる」と判明されました(※6、7)。 Ono Sらの報告(4)ではでは1/3まで減少したとされ、Matsuoらの報告(5)では半分に減少したとされています。消化性潰瘍を発症した患者さんを対象にした研究でも、ピロリ菌除菌治療は胃がん発症予防に有効と評価されています(※8)。
健常者でヘリコバクター・ピロリ感染がある方に除菌治療を行ったメタアナリシス報告(複数の論文をまとめて解析)でも、胃がんの発症予防に期待できる(46%の減少)と報告されています(※9)。
なお、除菌治療で胃がん発症リスクは確実に減少しますが、ゼロになるとは限りません。除菌後も引き続き、定期的に胃カメラ検査を受けるようにしましょう。

6) Fukase K, et al. Lancet. 2008 Aug 2;372(9636):392-7.
7) Choi IJ, et al. N Engl J Med. 2018 Mar 22;378(12):1085-1095.
8) Take S, et al. Am J Gastroenterol. 2005 May;100(5):1037-42.
9) Ford AC, et al . Gut. 2020 Dec;69(12):2113-2121.

当院のピロリ菌検査

当院では、尿素呼気検査や血液検査、便中ピロリ菌抗原検査などを実施に対応しています。
これらの検査の中で、一番除菌に成功しているかどうかを調べるのに適している検査は「尿素呼気試験」です。胃の中の尿素はピロリ菌が分泌するウレアーゼという酵素によってアンモニアと二酸化炭素に分解され、その内二酸化炭素は呼気中に排出されます。
尿素呼気試験ではこの原理を利用し、尿素を含んだ検査薬を内服していただき、内服前後の呼気を調べることで、ピロリ菌の存在を診断します。

除菌の副作用

約10~30% 下痢、軟便
5~15% 舌炎、口内炎、味覚異常
2~5% アレルギー、皮疹
その他副作用 めまい、腹痛、肝障害など

下痢につきましては整腸剤を服用することで、予防効果に期待できると言われています。治療を中止せざるを得ない副作用は2~5%に発生します。

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